2026/9/5
やりたいことがわからない人へ|106人の人生から見えた5つの問い
やりたいことがわからない時、無理に職業名や一生続けられる夢を決める必要はない。
先に確かめたいのは、「どのような時間に心が動くか」「誰との関係を大切にしたいか」「どのような行動を繰り返しているか」である。やりたいことは、頭の中から完成形で出てくるものではない。小さく試し、その後の自分の反応を見る中で輪郭を持つことがある。
IKIGAI JAPANは、一人ひとりの人生と、その人が大切にしているIKIGAIを本人に直接聞き、インタビュー記事として記録している。IKIGAI JAPAN編集部が公開106人の記事を分析した結果(2026年9月)、最初から明確な答えを持っていた人ばかりではなかった。行動、出会い、挫折、生活の変化を経て、後から自分のIKIGAIを言葉にしている人がいる。
この記事では、106人の一次情報から見えた共通点と、やりたいことを考えるための5つの問いを紹介する。
106人のIKIGAIから見えた、職業名より先にあるもの
公開106人の記事に編集部が付けた価値観タグでは、「家族」が25人、「子ども」が24人、「創造」が23人、「仲間・友」が21人、「健康・命」が20人であった。
これは、家族を持てばIKIGAIが見つかるという統計ではない。一人の記事に複数のタグが付き、掲載者も経営者や専門家が中心である。それでも、IKIGAIが職種の名前だけでは語られていないことは分かる。何をするかと同じくらい、誰と生きるか、何を守るか、どのような時間を増やしたいかが人生の方向に関わっている。
取材で現在の活動だけを聞くと、最初から明確な目的を持って進んできたように見える。しかし人生を過去から順番に聞くと、当時は意味が分からなかった経験や、頼まれて始めたことが、現在の役割につながっている場合がある。
仕事や独立を先に決めるのではなく、一日の使い方から考えたい方は、結婚、出産、住む場所、働き方を含めて選択を組み立てた吉沼枝里子さんのインタビューを補足として読んでほしい。「何の仕事をするか」より、「24時間を何に使いたいか」から考えた記録である。
やりたいことがわからない時、106人から見えた三つの特徴
一つ目は、やりたいことより先に「もう続けたくないこと」や「守りたいもの」が見つかる場合があることである。違和感は否定すべき感情ではなく、選択の条件を知る手がかりになる。
二つ目は、確信より先に行動があることである。話を聞く、頼まれたことを試す、興味のある場所へ行く。小さな経験をした後に、「もう一度やりたい」「思っていたものと違う」という反応が生まれる。その反応が次の選択を具体的にする。
三つ目は、IKIGAIは固定された答えではないことである。家族、健康、仕事、地域との関係が変われば、大切にしたいものも変わる。一度決めた答えを守り続けることより、現在の自分に合っているかを確かめ続けることが重要である。
研究から補足できる、関心が育つための条件
RyanとDeciが2020年に発表した自己決定理論のレビューでは、人の動機づけを支える基本的な心理欲求として「自律性」「有能感」「関係性」が整理されている。自律性は自分で選んでいる感覚、有能感は力を使い成長できる感覚、関係性は他者とつながっている感覚である。
これは、三条件を満たせば天職が見つかるという公式ではない。ただし、やりたいことがわからない時に、活動を確かめる視点になる。最初は強い情熱がなくても、自分で選び、少しずつできるようになり、誰かとの関係が生まれることで、関心が育つ可能性がある。
Newmanらが2018年に発表した日誌研究では、大学生254人が2週間にわたり、人生の意味を探す感覚と意味を感じる感覚を毎日記録した。意味を探すことは、個人差だけでなく、一人の中で日々変化する過程として捉えられている。
この研究は、やりたいことがわからない人全員へ同じ方法が有効だと証明するものではない。それでも、分からない状態を「何もない」と決めつけず、探索の途中として扱う考えを補足している。
やりたいことがわからない人が書き出したい5つの問い
IKIGAIの取材を続けて感じるのは、「やりたい職業は何か」には答えられない人でも、具体的な一日、関係、行動については言葉にできることが多いということである。
そこで、職業名を決めるためではなく、自分の選択基準を見つけるために、次の五つを書き出してほしい。
- どのような一日なら、疲れても納得できるか。
- 誰といる時、自分を演じずに話せるか。
- 人から頼まれなくても、つい調べたり工夫したりすることは何か。
- 自分の経験のうち、誰かの役に立て直せそうなものは何か。
- 今月中に、三千円または三時間以内で試せることは何か。
答えを職業名に変換する必要はない。「一対一で話す時間を増やしたい」「手を動かして形にしたい」「困っている人の選択肢を増やしたい」程度で十分である。
やりたいことがわからない時、5つの問いで何が変わるのか
五つの問いには、漠然とした悩みを「確かめられる仮説」に変える効果がある。
例えば、「人の役に立つ仕事がしたい」だけでは選択肢が広すぎる。しかし、「一対一で話し、相手が選べる状態をつくりたい」と書ければ、今の仕事でも試せる行動が見える。関心のある人に30分話を聞く、体験講座へ行く、作品を一つ公開するなど、生活を壊さない大きさで試せる。
試した後は、「楽しかったか」だけでなく、「もう一度やりたいか」「誰の役に立ったか」「無理なく続けられるか」を記録する。取材を通じて感じるのは、一度の強い感動より、何度でも戻ってしまう関心や、続けても苦になりにくい行動の方が、その人のIKIGAIを考える手がかりになりやすいということである。
自分の不調や遠回りした経験を、誰かの選択肢へ変えられないか考えている方は、長時間働けない人も関われる仕事をつくろうとしている木下久美さんのインタビューが参考になる。苦しかった経験を美化するのではなく、経験から見えた課題を仕事の仕組みに変えている記事である。
家族や収入を守りながら、自分の創造性も失いたくない方は、今いる場所から小さな冒険を始める道田真司さんのインタビューを読んでほしい。家族か自分かの二者択一ではなく、両方を守る方法を探した記録である。
5つの問いを使う時の注意点
第一に、立派な答えを書こうとしないことである。他人から評価されそうな答え、収入につながりそうな答えを優先すると、自分の感覚が見えにくくなる。正解ではなく、現在の自分が実際に感じていることを書く。
第二に、一度書いた答えを将来の決定事項にしないことである。行動した後に変わってよい。試した結果「違った」と分かることも前進である。
第三に、生活を一度に変えないことである。退職や移住などの大きな決断より先に、時間、費用、期限を限定した実験を置く。守りたい収入や関係を明確にしたうえで試す必要がある。
何をしても気持ちが動かない、眠れない、食べられない、日常生活を続けることが難しい状態では、IKIGAI探しより先に医療機関や相談窓口、信頼できる人を頼るべきである。
一方で、気になることはあるのに、その方向が何度も変わる場合は、やりたいことがコロコロ変わる時の5つの問いも読んでみてほしい。何も決まらない感覚と、経験して関心が変わることを分けて考えられる。
やりたいことがわからない状態は、IKIGAIの入口である
やりたいことがわからない状態は、何もない状態ではない。まだ言葉になっていない関心や、今まで優先できなかった価値観がある状態である。
やりたいことがわからないままでも、試した後の自分の反応は観察できる。答えを考え続ける時間と、現実の中で確かめる時間を分けることが重要である。
好きな仕事を一つ当てようとしなくてよい。送りたい一日、守りたい関係、何度でもやってしまう行動を拾い、小さく試す。IKIGAIは、その反復の中で「自分はこれを大切にして生きたい」と分かる形になっていく。
IKIGAIコネクター
尾﨑弘師
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調査・集計方法
本記事の「公開106人」は、2026年9月時点でIKIGAI JAPANに公開されているインタビューを対象としている。数値は、各記事へ編集部が付与した複数選択タグと本人の発言をもとにした単純集計である。掲載者は経営者・専門家が中心であり、日本人全体の傾向を示す統計ではない。延べ1,500人以上という数値は、尾﨑弘師がこれまで人生を聞いてきた累計であり、公開106人の集計とは別の母集団である。
WRITER PROFILE
尾﨑弘師 (おざき ひろし)
IKIGAIコネクター/IKIGAI JAPAN 主宰/株式会社ミトミト 代表取締役
これまで延べ1,500人以上に「生きがい(IKIGAI)」をヒアリングし、経営者を中心に100本以上の長編インタビュー記事を執筆。経営者インタビューメディア「IKIGAI JAPAN」を運営し、人生・価値観・哲学・仕事への想いを取材・言語化し、次世代へ残す活動を続けている。
掲げるのは、「その人の人生は、誰にもコピーできない。だからこそ、残すべき価値がある。」という考え方。AIによってコンテンツが大量生産できる時代だからこそ、その人にしかない経験や思想、技術、物語こそが差別化資産になると考えている。
さらに、発掘したIKIGAIをブランド・採用・集客・営業へつなげ、経済の力へ変える「IKIGAIマーケティング」を実践。インタビューによる価値の発掘・言語化を起点に、Webサイト・漫画LP・アニメーションなどのクリエイティブ制作から、広告運用・営業設計まで一気通貫で支援し、「その人だから選ばれる」マーケティングの仕組みを構築している。



