
平均化の罠とは何か
平均化の罠とは、いろいろな意見や配慮を重ねるうちに、もともとあった強みや尖りが薄まり、結果として「悪くはないが、印象に残らない表現」になってしまう現象である。
広告制作では、この罠が本当によく起きる。最初の案は、誰に何を届けるかが明確で、言葉にも熱がある。「これなら刺さる」と思える芯がある。しかし、確認者が増えるたびに「もう少し柔らかくしたい」「強すぎる表現は避けたい」「もっと分かりやすくしたい」と修正が入る。その結果、最初は強く刺さっていた訴求が少しずつ削られ、無難で整った表現へと変わっていく。
でも、広告はただ整っていればいいわけではない。整っているだけの広告は、だいたい弱い。独自性のある広告ほど、人の記憶に残りやすい。逆に言えば、誰にも嫌われない広告は、誰の印象にも残らない。
私自身、営業・制作・運用の現場で何度も同じ場面を見てきた。最初は「これ、刺さるな」と思える表現があったのに、打ち合わせや確認を重ねるうちに角が取れ、熱が消え、最後には“誰にも反対されない代わりに、誰の心も強く動かさない言葉”に変わっていく。
意見を入れすぎることで、訴求が平均化してしまう。これこそが、広告における平均化の罠である。
広告が弱くなる会社に共通する3つのパターン
では実際に、広告が弱くなる会社では何が起きているのか。私が現場で見てきて、特に共通していたのは次の3つのパターンである。
- 全員の意見を平等に入れようとする
- 「誰に刺さるか」より「誰にも反対されないか」で判断する
- 修正のたびに、伝えたいことが増えていく
1.全員の意見を平等に入れようとする
広告制作でよくあるのが、関係者全員の意見をできるだけ平等に反映しようとする進め方だ。経営者、現場、営業、制作。それぞれの立場から意見が出る。一つひとつはもっともらしいし、どれも間違っているわけではない。だからこそ厄介だ。
問題は、それを全部入れようとすると、訴求の芯がぼやけることにある。
たとえばLPのファーストビューで、最初は「売れない理由は、商品ではなく見せ方にある」と言い切る強い切り口だったとする。そこに経営者から「少し強すぎる」、現場から「誤解されない表現にしたい」、営業から「説明しやすくしたい」という意見が入り、最終的に「事業成長を支援するご提案」のような無難な表現に変わる。
こういうことは、本当に起きる。しかも、修正した人たちは誰も悪気がない。むしろ良かれと思って直している。だから止めにくい。でも、広告は多数決で強くなるものではない。全員の納得を集めた時点で、最初にあった熱はかなり失われていることが多い。
2.「誰に刺さるか」より「誰にも反対されないか」で判断する
広告が弱くなる会社ほど、広告の判断基準が“市場”ではなく“社内”に寄っていく。本来問うべきなのは、「この表現は誰に刺さるか」「この訴求で相手は動くか」という一点のはずだ。それなのに、実際の会議では「強すぎないか」「嫌がられないか」「社内で通しやすいか」が優先されることが多い。
その結果、広告は少しずつ安全な言葉へ置き換わる。強い訴求は弱まり、特徴は薄まり、最終的には“誰にも嫌われない代わりに、誰にも強く選ばれない広告”ができあがる。
ここでズレているのは、センスではない。判断基準である。
広告に必要なのは、全員の納得ではない。特定の相手に「これは自分のことだ」と思わせることだ。その視点が消えた瞬間、広告は丸くなり、反応を失っていく。
3.修正のたびに、伝えたいことが増えていく
もう一つよくあるのが、修正のたびに伝えたいことが増えていくパターンだ。最初はシンプルだったはずなのに、打ち合わせを重ねる中で「あれも入れたい」「これも伝えたい」「この強みも外せない」と、要素がどんどん増えていく。
たとえば営業資料で、最初は「導入後3か月で問い合わせ導線を整える」という一点を訴求していたとする。しかし修正の中で、「実績も入れたい」「サポート体制も伝えたい」「料金の柔軟さも入れたい」「代表の想いも載せたい」と情報が増え、結果として何が一番の価値なのか分からない資料になる。情報は増えているのに、印象は薄くなる。
ここで勘違いしやすいのは、情報量が増えれば親切になると思ってしまうことだ。でも広告は、説明を足すほど強くなるわけではない。むしろ逆で、何を削るかで強さが決まる。伝えたいことが多い会社ほど、伝わらない広告を作ってしまいやすいのである。
なぜ広告は“無難”になると売れなくなるのか
広告は全員に好かれるためのものではない
広告の役割は、全員に好かれることではない。ある特定の相手の感情を動かし、行動を起こしてもらうことにある。
反応が出る訴求は、少し尖っている
実際に反応が出る訴求は、たいてい少し尖っている。全員にとって気持ちいい言葉ではないかもしれないが、悩みを抱えている相手には深く刺さる。
安全な表現は通りやすいが、選ばれにくい
逆に、会議では通りやすいが、現場では反応が薄い表現もある。それは多くの場合、「誰にも嫌われないように整えられた言葉」だ。安全な表現は社内では通しやすいが、市場では埋もれやすい。
平均化の罠にハマらないための方法
私自身も、つい平均化の罠にハマってしまうことがある。確認者が増えれば安心感は出るし、AIやネットで調べれば“それっぽい正解”もすぐ見つかる。さらにネガティブな反応が来ると、つい角を削って安全な表現に寄せたくなる。
ただ、広告を弱くする原因は、センス不足というよりも、こうした判断の構造にあることが多い。だからこそ、平均化を防ぐには「才能」ではなく「進め方」を変えることが重要になる。ここでは、私自身も意識している3つの方法を整理したい。
① 少人数で進める
広告の初期設計や訴求づくりは、できるだけ少人数で進めた方がいい。人数が増えるほど視点は増える。でもその一方で、創造的な場面では「変に思われないか」「この案は強すぎないか」といった評価不安が起きやすくなる。人が増えるほど、意見の量は増えるが、訴求の芯は守りにくくなる。
私の感覚でも、最初の骨格づくりを5人、6人で始めると、だいたい早い段階で丸くなる。逆に、責任者ともう一人、せいぜい2〜3人で芯を作った案件の方が、熱が残りやすい。最初から全員参加で正解を作ろうとするより、まず少人数で“刺さる原案”を作る方が強い。
② AIやネットで調べない時間をあえて作る
これは「情報を遮断した方がいい」という極論ではない。大事なのは、調べる時間と、調べずに考える時間を分けることだ。
今は調べれば、整った答えがいくらでも出てくる。AIも、検索も、YouTubeも、競合LPも、ヒントにはなる。でも、それらを見続けていると、いつの間にか“自分たちの言葉”ではなく、“平均的に正しい言葉”に寄っていきやすい。
私はここが怖いと思っている。便利なものほど、思考を代行してくれる。でも、広告で本当に必要なのは、整った答えではなく、現場の温度が乗った言葉だ。
だから私は、あえて「調べない時間」を作るのが大事だと思っている。先に素材を集め、その後はいったん画面を閉じる。そして、自分の顧客、現場、商談の記憶だけで考える。そうすると、平均的な答えではなく、自分たちの現場に根ざした言葉が出やすくなる。
③ ネガティブな反応への対応を先に決めておく
広告が丸くなる大きなきっかけの一つは、ネガティブな反応そのものではなく、その場で慌てて守りに入ることだ。
「強すぎるんじゃないか」「ちょっと怖い」「言い切りすぎでは」――こういう反応が来ると、人は一気に弱気になる。そして、その場で広告を丸めてしまう。
でも本当に大事なのは、その反応が来た時に、どう扱うかを先に決めておくことだ。
- もし「強すぎる」と言われたら、まず「誰にとって強すぎるのか」を確認する
- もし否定的な意見が出たら、すぐ弱めるのではなく、「ターゲットに刺さるか」で再評価する
- もし社内で反対が出たら、「市場で反応を取るために必要な尖りかどうか」を先に検討する
こうしておくだけで、必要な修正と、ただ守りに入っているだけの修正を分けやすくなる。
私自身も、ここを先に決めていない時ほど、ネガティブな反応に引っ張られて広告を丸くしてしまいやすい。逆に、対応方針を先に決めておくと、表現を守るべきところで守りやすくなる。
平均化を防ぐ広告制作の進め方
誰に刺す広告なのかを最初に決める
広告は、全員に届かせるものではなく、特定の相手に刺すためのものだ。だからこそ、最初に「誰に刺す広告なのか」を明確に決めておくことが重要になる。
入れる意見と入れない意見の基準を決める
意見は多いほど良いわけではない。どの意見を採用し、どの意見を採用しないのか。その基準が曖昧だと、広告はすぐに平均化する。
修正の基準を「分かりやすさ」ではなく「動きたくなるか」に置く
広告で大事なのは、説明が丁寧であることよりも、相手が「これは自分のことだ」と感じ、動きたくなることだ。修正の基準をそこに置くだけで、訴求はかなりぶれにくくなる。
まとめ|広告を強くするのは意見の数ではなく判断基準
広告は意見を集めるほど強くなるわけではない
平均化の罠を防ぐ方法は、派手な発想法ではない。むしろ逆で、最初の設計は少人数で進める、外部情報に触れ続けず考える余白を作る、否定的な反応が来たときの扱い方を先に決めておく――この3つだけでも、広告の芯はかなり守りやすくなる。
どの意見を、どの順番で扱うかで強さが決まる
広告は、意見を集めるほど強くなるわけではない。どの意見を、どの順番で、どの基準で扱うかで強さが決まる。
誰にも嫌われない広告は、誰の印象にも残らない
そして最後に、この記事の核を一言で言えばこうだ。
誰にも嫌われない広告は、誰の印象にも残らない。
参考文献・参考資料
-
Paulus, P. B. ほか “Collaborative creativity and idea generation in groups”
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6620827/ -
“Fixation and incubation in creative idea generation”
https://link.springer.com/article/10.3758/s13421-019-01005-4 -
“Effects of feedback / negative feedback acceptance in workplace settings”
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7304587/ -
“A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment”
https://www.researchgate.net/publication/351524219_A_Meta-Analysis_of_the_Effects_of_Mental_Contrasting_With_Implementation_Intentions_on_Goal_Attainment -
“Distinctive advertising / ad distinctiveness and recall”
https://www.kci.go.kr/kciportal/landing/article.kci?arti_id=ART002015029 -
IPA “Why brand difference matters and what you can do to drive it”
https://ipa.co.uk/knowledge/ipa-blog/why-brand-difference-matters-and-what-you-can-do-to-drive-it
WRITER PROFILE
尾﨑弘師 (おざき ひろし)
IKIGAIコネクター
日本中に眠る、「この人は本気で人生を使っている」と思える人たちを訪ね、その哲学、信念、技術、そして言葉にならない熱まで掘り起こし、物語として発信している。
うまく見せる人ではなく、不器用でも、泥くさくても、誰かのために人生を燃やしている人を残したい。
営業・ブランディング・インタビュー設計の現場で磨いてきた経験をもとに、概念としてのIKIGAIではなく、現場で生きるIKIGAIを見つけ、つなげ、未来へ手渡す活動を続けている。