• ホーム
  • IKIGAIコラム
  • 働きたくないのは「自分をすり減らす働き方」が原因?論文と取材から考える

働きたくないのは「自分をすり減らす働き方」が原因?論文と取材から考える

「働きたくない」

朝、仕事のことを考えるだけで気が重い。休みが終わるのがつらい。生活のために働く必要があることは分かっている。それでも、働きたいと思えない。

働きたくない自分を、「怠けているのではないか」と責めてしまうこともあるだろう。

結論から言えば、「働きたくない」という気持ちだけで、その人の意欲や原因は決められない。疲れ切っているのか。自分で選べないことが苦しいのか。大切にしたいものを、仕事の中で守れなくなっているのか。まずは、その中身を分けて考えたい。

働くことそのものを嫌っているつもりでも、本当に離れたいのは、自分をすり減らす今の働き方かもしれないからである。

IKIGAI JAPANは、一人ひとりの人生とIKIGAIを本人に直接聞き、記録している。110名の公開インタビューという蓄積のうち(2026年9月18日時点)、本稿では、働き方の選択が語られた3人の記事を読み直した。本人の言葉と、2024年・2026年に発表された研究を手がかりに、働く気持ちが失われる背景を考える。

なお、3人の経験から原因の割合や日本人全体の傾向を示すものではない。以下は、取材記録に基づく考察である。

働きたくないと感じたときに働き方を見つめ直す、窓辺の机と椅子のイメージ写真
働き方を見つめ直すためのイメージ写真。Photo by FlippingBook on Unsplash

働きたくないとき、最初に確かめたいのは「もう力が残っていない」可能性である

働く意味が分からなくなったとき、すぐに「やりたいこと」を探そうとする人がいる。しかし、その前に確かめたいことがある。

考えたり、選んだり、新しいことを試したりするための力が、今の自分に残っているかということである。

休む時間が足りない。仕事の量が多すぎる。責任を一人で背負っている。その状態のまま「もっと仕事を好きになろう」としても、負担を増やしてしまう。

gelateria NOCEの木下久美さんは、会社を辞めて一人で事業を始めた頃、商品、販売、資金、今後の方向をすべて考える中で、心身の調子を崩した経験を語っている。もともとよく働く人であっても、思うように動けなくなる時期があった。

その経験を経て、働きたい気持ちがあっても、毎日決まった時間に働けない人の存在へ目が向いたという。

「もっと自由に働ける場所を探している人もいるんじゃないかなと思いました」

この言葉から考えたいのは、働く意欲と、今使える時間や力を同じものとして扱わないことである。今の働き方についていけないことを、そのまま「自分は働くことに向いていない」という結論へつなげなくてよい。

研究にも、疲弊と仕事の意味を一方向だけで捉えない視点がある。MaunzとGlaserの2024年の縦断研究は、ドイツ語圏の働く人を12か月間、3時点で調べた。3回分の回答がそろった781人の分析と、欠測を補った2,131人の分析から、バーンアウトと仕事の意味の間に、時間を隔てた双方向の負の関連を報告している。論文:Longitudinal dynamics of psychological need satisfaction, meaning in work, and burnout

これは質問紙による観察研究であり、個人の原因を断定するものではない。ただ、仕事の意味が見えないときには、意味を探すことと同時に、疲弊していないかを確かめる必要があると考えられる。

「以前は動けたのに、今は動けない」と感じる方は、木下久美さんのインタビューを補足として読んでほしい。頑張れる量が違っても、人が仕事に関われる場所をどうつくるかが語られている。

働きたくない原因を、「自分で選べない働き方」から考える

同じ仕事でも、進め方を相談できる場合と、何も変えられない場合では、受け止め方が違うのではないだろうか。

自分なりに工夫しても認められない。苦しいと伝えても仕事の量が変わらない。疑問を持っている商品を、決められた通りに売り続けなければならない。

こうした状況で失われているのは、仕事への興味だけではない。「自分の意思が、この仕事に関わっている」という感覚でもある。

2026年に発表されたHaggerとStarのメタ分析は、企業、医療、教育などの職場を扱う192件の研究、合計93,552人分のデータを統合した。自律性、能力を発揮できる感覚、人とのつながりが満たされることや、自分で納得して働く動機は、仕事への関与や満足感などと関連していた。論文:Self-Determination Theory and Workplace Outcomes: A Meta-Analysis

対象研究の多くは一時点の相関研究であり、国や職種による違いもある。「裁量を増やせば必ず働きたくなる」という証明ではない。それでも、意欲を本人の性格だけで説明せず、職場で何が満たされているかを見るための手がかりになる。

株式会社zuanteの迫優華さんは、完全歩合制の営業会社で働いた経験を語っている。自分で扱うものを選び、自由な働き方へ近づきたいと思って入社したが、現実には望んだ商品をすぐに扱えるわけではなかった。働き続けた末に伝えたのは、「もうこれ以上、頑張れません」という言葉だった。

その後、迫さんはウェブ制作へ進んでいる。だからといって、当時のつらさが小さかったことにはならない。読み取れるのは、ある働き方を続けられなかったことと、その人が仕事に関わる可能性を失ったことは、同じではないということである。

「今のやり方で働き続けることがつらい」と感じる方は、迫優華さんのインタビューを補足として読んでほしい。自分を曲げずに、誰のためにつくるのかを問い直していく過程がある。

働きたくないとき、仕事の意味を「誰の何が変わるのか」から考える

仕事に納得できないとき、大きな夢や使命がなければいけないと思う必要はない。

目の前の人の困りごとが一つ減った。つくったものを、誰かが使ってくれた。自分が整えたことで、次の人が動きやすくなった。そうした具体的な変化に、自分がどう反応するかを見たい。

ただし、誰かの役に立つ仕事であれば、どんな条件でも続けるべきだという話ではない。収入、休息、安全、家族との時間も、その仕事を続けるための大切な条件である。

株式会社アンサングヒーローの田中誠さんは、現在の仕事の軸を「顧客を勝たせる」と語っている。取材では、経営者に伴走し、相手が財務を理解し、自分で判断できるようになっていく過程が語られた。

ここで注目したいのは、働く熱が、肩書きや売上目標だけで説明されていないことである。相手の不安が整理され、できることが増える。その変化に立ち会うことが、仕事を続ける理由になっている。

何をしているかに加えて、「その仕事の先で、誰の何が変わるのか」。働く意味を考える際には、この問いも置いてみたい。

誰のために働いているのか見えなくなった方は、田中誠さんのインタビューを補足として読んでほしい。目の前の人を支える役割と、自分が大切にしたい生き方を重ねていく姿がある。

「働きたくない」を、確かめられる三つの問いに変える

漠然とした「働きたくない」を、いきなり退職か継続かの二択にしなくてよい。少し考えられる余裕があるなら、次の問いのうち、一つだけ書いてみてほしい。

1.何から離れたいのか

仕事の内容、長い拘束時間、特定の人との関係、収入への不安、断れない依頼。つらかった場面を一つ選び、具体的に書く。

この問いは、「仕事が全部嫌だ」という感覚を、確かめられる問題へ分けるためのものである。例えば、仕事の内容には関心が残っていて、夜まで連絡が続くことがつらいなら、考える対象は職種だけではなく、連絡や時間の境界になる。

2.何が変われば、少しは関われそうか

仕事の量が減る。進め方を相談できる。相手の顔が見える。報酬と負担の釣り合いが取れる。自分にとって必要な条件を一つ挙げる。

目的は、我慢する方法を探すことではない。今の環境で調整できることと、環境を変えなければ難しいことを分けることである。

可能なら、相談相手と期限を決め、一つの条件だけ調整してみる。その後の疲れ方や、仕事への気持ちを観察する。変化がなければ、それも判断の材料である。

3.最近、どんな場面では自分から動いたか

仕事でなくてもよい。人の相談を聞いた。家族のために何かを調べた。気になるものを直した。誰に頼まれなくても手を動かした場面を思い出す。

これは、すぐに職業へ結びつけるための問いではない。今の仕事とは別に、自分が関心を持てる行動や、大切にしたい関係を拾うためのものである。

何も浮かばない日があっても、答えを無理につくらなくてよい。ここで挙げた問いは診断や治療ではなく、状況を整理するための提案である。強い心身の不調が続く場合や、ハラスメント、安全上の問題がある場合は、問いを深めるより医療機関や相談窓口につながることを優先したい。

働くことに魂を燃やす人の姿は、自分を知るきっかけになる

私は、IKIGAIを持つ人たちに、その人の人生と、大切にしていることをインタビューしてきた。

今回読み直した3人の言葉から、改めて感じたことがある。今の仕事に熱を注いでいる人にも、続けられなかった働き方や、自分の限界を知った経験があるということである。

働く姿の勢いだけを見れば、「もともと仕事が好きな人なのだろう」と思うかもしれない。しかし、その人が何に苦しみ、何を変え、今は誰のために力を使っているのかまで聞くと、見えてくるものが違う。

私は、仕事に熱を注ぐ理由を聞くとき、その人が何を守ろうとしているのかにも目を向けたい。自分を曲げずにつくること。使える時間や力が違う人も関われる場所をつくること。目の前の人が、自分で未来を選べるように支えること。そこには、それぞれの人生を通ってきた理由がある。

「働きたくない」と感じる今の自分が、同じように熱くならなければいけないわけではない。IKIGAIを仕事だけに求める必要もない。

それでも、働くことに魂を燃やしている人たちの人生に触れると、何かに気づくきっかけになるかもしれない。

自分にも大切にしたい相手がいる。こういう関わり方なら、少し興味がある。今の働き方で手放してしまったものを、もう一度守りたい。

その小さな反応を、見過ごさずにいたい。

働くことを好きになるという目標の前に、自分をすり減らしているものと、自分が大切にしたいものを知る。その先に、今とは違う働く理由が見えてくるかもしれない。

IKIGAIコネクター
尾﨑弘師

WRITER PROFILE

尾﨑弘師 (おざき ひろし)

IKIGAIコネクター/IKIGAI JAPAN 主宰/株式会社ミトミト 代表取締役

これまで延べ1,500人以上に「生きがい(IKIGAI)」をヒアリングし、経営者を中心に100本以上の長編インタビュー記事を執筆。経営者インタビューメディア「IKIGAI JAPAN」を運営し、人生・価値観・哲学・仕事への想いを取材・言語化し、次世代へ残す活動を続けている。

掲げるのは、「その人の人生は、誰にもコピーできない。だからこそ、残すべき価値がある。」という考え方。AIによってコンテンツが大量生産できる時代だからこそ、その人にしかない経験や思想、技術、物語こそが差別化資産になると考えている。

さらに、発掘したIKIGAIをブランド・採用・集客・営業へつなげ、経済の力へ変える「IKIGAIマーケティング」を実践。インタビューによる価値の発掘・言語化を起点に、Webサイト・漫画LP・アニメーションなどのクリエイティブ制作から、広告運用・営業設計まで一気通貫で支援し、「その人だから選ばれる」マーケティングの仕組みを構築している。

他のコラムを見る