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自分の火種を、消さずに生きる——人が内側から動く世界をつくる
島田由香 株式会社YeeY
人の内側にある火種をひらくウェルビーイング実践者
和歌山県みなべ町
自分の火種を、消さずに生きる——人が内側から動く世界をつくる
「60年生きてきて、生まれて初めて6月が楽しいと思えた」
和歌山県みなべ町で活動していて、ある梅農家さんから届けられた言葉だ。
「こういう言葉を聞けた時は、生きてて良かったっていうか、『やってて良かったな』って思う」
ウェルビーイングの第一人者として知られる島田由香さん。 株式会社YeeYの共同創業者・代表取締役として、人事や組織開発、ウェルビーイング経営に関わりながら、現在は地域や一次産業の現場にも身を置き、大学教授として教育にも携わっている。
島田さんが人生を通して深めてきたのは「人」だった。
幼い頃から両親の生き方を見つめ、中学生の頃には、自分を後回しにしてまで周囲を優先する自分に違和感を持った。大学では世界平和に関心を持つ中で組織論と出会い、「自分が本当にやりたかったのはこれだ」と人事の道へ進んでいく。
その後、企業で人と組織に向き合い続ける中で、自分がずっと自然と考えてきたことに「ウェルビーイング」という言葉が重なった。
人が本来持っている力や感性を取り戻し、自分の中にある「これをやりたい」に正直に動いていくこと。
島田さんは、自分が創りたい世界をこんな言葉で表現した。
「私が居たい、そして創りたい世界は、『人が内的なものから動く世界』です」
誰かから与えられた正解を追うのではなく、自分が何を感じ、何を大切にし、何を表現したいのかに気づいていく。
島田さんは、一人ひとりがそれぞれに「火種」を持っていると話す。
誰かに与えてもらうものではない。それは、すでに自分の中にある。
この物語を読み終える頃、あなたの中に眠っている火種が、灯り始めているかもしれない。
第1章|「自分に失礼だ」と気づいた——自分も、みんなと同じように大切にする
島田さんに、人生で一番大切にしている価値観を尋ねると、最初に返ってきたのは「一番はない」という言葉だった。
大切なものはいくつもある。その中で島田さんが挙げたのが、「自分らしくあること」だった。
「自分らしくあるってことかな。嘘をつかないとか、ごまかさないとか」
自分に嘘をついてきたことはあるのかと尋ねると、「ないですね」と即答した。
「自分に嘘をついてることはないです。むしろ自分に嘘をつかないでいるから、周りが『えっ?』ってなるみたいな感じだと思います」
その話を聞いていく中で、両親の存在が出てきた。
父はジャーナリストとして飛び回り、母は主婦として家庭を支えていた。島田さんが両親について話したのは、物事や人に向き合う姿勢だった。
「自分の本質っていうのが何なのか。それを父も母もすごく大事にして生きているし、私に対してもそれを見せてくれてたと思います。適当にやらないし、最善を尽くすというか、まっすぐ正面を向いて、いい加減にやらないっていう感じです」
手を抜かず、ごまかさず、目の前のことに向き合う。そうした姿勢について島田さんは、「ちゃんと受け継いでいるものだと思っています」と話した。
物心つくころには、みんなと仲良くやることを大切にする言動を自然ととっていた島田さん。中学生の頃にはその関心は少しずつ世界平和へと広がっていく。
一方で、同じ中学生時代、人との関わりの中で、自分自身に対する見方が変わる出来事もあった。それまで仲良くしていた友人たちが、ある時から突然、話をしてくれなくなった。無視をされたり、嫌なことをされたりするようになり、島田さんは最初、自分が何か悪いことをしてしまったのではないかと考えた。
「何かやっちゃったのかなって。気づかずに言ったりしたことで怒っちゃったのかなとか。仲良くしたいし、仲良くしてもらいたいから、『ごめんね』って言い続けていたんです」
相手が何に怒っているのかは分からない。それでも関係を戻したくて、自分から謝っていた。それを続けるうちに、ある時ふと疑問が浮かんだ。
「なんで別に悪くないのに、悪いことしてないのに私は謝ってるんだろうって。自分にすごく失礼だなって気づいたんです」
自分を奮い立たせて考え方を変えたわけではなかったという。
「切り替えたんじゃなくて、気づいちゃったって感じですね」
それまでの島田さんは、自分が我慢することでその場がうまくいくなら、それでいいと思うことがあった。
「そのことがある前っていうのは、自分を最後にしてでも周りを優先しようとしてたかな。それをやめたっていう感じです」
周囲を大切にする気持ちは、その後も変わらなかった。変わったのは、自分も周囲の人と同じように大切にするようになったことだった。
「みんなも大事だし、私もそれと同じくらい自分が大事。例えばみんなと何かを分ける時、以前は先にみんなに選んでもらって、自分は欲しいものがあったとしても残ったものでいいんだと思うようにしていた。でもそれが『私もこれ欲しいよ。でもどうする?』みたいな感じに変わったと思います」
島田さんは、本人に言えないことを陰で言うことはしない。誰かに思うことがあるなら、本人にも伝えられる言葉で話すという。
「私は陰口は絶対に叩かないです。悪く思ったり、言いたいことがあったら、ちゃんと本人にも言う。本人に言えないことは言わない」
ただ、正直であることと、思ったことをそのまま相手にぶつけることは違う。
「感じたり、伝えたいなと思ったことを、礼儀を持って相手に届けるっていうことは必要だと思っています。自分にも正直でありたいし、本当に大切に思ってる人であればなおさら、その人にも正直でありたい」
だから、言葉を選ぶ。
「どういうタイミングで、どういう表現を使って伝えるかっていうことについては、とても意識を向けます」
自分を後回しにしないことも、自分の気持ちをごまかさないことも、相手を雑に扱うことにはつながらない。島田さんは、そのあり方を一つの言葉で表現した。
「正直であるっていうのかな」

第2章|「自分がやりたかったのは、この道だ」——世界平和から人事、そしてウェルビーイングへ
大学に入った頃、島田さんが関心を持っていたのは、国際関係の仕事だった。外交官や国際弁護士のように、国と国の間に入り、どうすれば争いを減らし、ともに生きていけるのかを考える仕事を思い描いていた。
大学2年生の時、島田さんは組織論の授業を受けた。企業からさまざまな人が訪れて話をする授業の中で、ある銀行の人が、今の会社に元気がないことや、新しい優秀な人材に入ってきてもらいたいという趣旨の話をした。
その話を聞きながら、島田さんの中に一つの思いが浮かんだ。
「どうしてこの人は自分の会社の人を幸せにしないんだろう。社員が幸せだったら会社はうまくいくに決まってるのにと思った時に、『あ、これだ、私が本当にやりたいことは』って気づいたんです」
それまで考えていた世界平和、そして人事。
島田さんの中で、その二つが繋がった。
「変わってはなくて、繋がっていて、もっとこのことの方が本質だなって気づいたっていう感じです。世界の平和っていうのは、一人ひとりの状態から生まれるものなので」
島田さんは自分が進みたい方向を見つけた。
大学卒業後、人材サービス会社でキャリアをスタート。その後、海外の大学院で組織心理学を学び、外資系企業で人事の経験を重ねていった。やがて人事部門の責任者として、組織づくりや働き方そのものにも深く関わるようになる。
その中では、社員がより力を発揮できるよう、働く場所や時間を自ら選べる仕組みづくりにも取り組んだ。
人事として人と組織に向き合い続ける中で、それまで考えてきたことに「ウェルビーイング」という言葉が重なっていった。
その後、株式会社YeeYを共同創業。企業の人事や組織開発、ウェルビーイング経営に関わりながら、活動する場所は企業の中から地域や一次産業、教育へと広がっていった。
自分が感じた喜びや気づきを、誰かと一緒に味わいたい。そんな感覚が、活動の根にある。
島田さんは、美味しいお店を見つけた時のことを例に挙げた。自分だけで知っておくのではなく、「おいしいの!」と誰かに伝えたい。そして、できるなら一緒にその場所へ行き、同じ体験を共有したい。
「それも、お店を教えようじゃないですよね。シェアしたい、一緒に」
そこから、島田さんが一つの言葉にたどり着いた。
「私は表現をしたいっていう感じです。教えたいんじゃなくて、表現したい」
自分が感じたことを表現し、それを誰かと分かち合う。さらに話を聞いていくと、その人との関わり方を表すもう一つの言葉が、何度も出てきた。
「みんなで」である。
第3章|「世の中のすべての人が魔法使い」——一人ひとりの強みを持ち寄る“みんなで”
「私は『みんなで』っていうのが大事なんです。一人で何かやるんじゃなくて、みんなでやるっていう」
なぜ、それほど「みんなで」を大切にするのか。島田さんが話したのは、一人ひとりが持っている「強み」についてだった。
「みんな全員が力を持っていて、全員が魔法を持っています。それが強みというものです。強みは魔法なんです」
人によってその魔法は違うからこそ、それぞれの強みになる。
「世の中のすべての人が魔法使いなんです」
ただ、自分がどんな魔法を持っているのか、まだ知らない人もいる。強みを持っていても、それを十分に使えていない人もいる。
一人だけでできることには限りがある。それぞれ違う強みを持つ人が集まれば、最初には考えられなかったところまで、できることが広がっていく。
「その魔法が集まれば集まるほど、いい魔力が出るから、できることが増えると思っています」
島田さん自身は、何もないところから最初のアイデアを出し、動き始めることが多い。だが、最初の一歩をつくる人だけでは、物事は動いてはいかない。
「私はそういう役割なんだと思うんです。何か0から1にするっていうか。でも、1を2、3、4、10、100、1000にしていってくれる仲間がいなければ、0から1だけで終わってしまうから」
ウェルビーイングに関わり続ける中で、島田さんと一緒に動く人たちも増えていった。島田さん自身は、その広がりを「自分が人を巻き込んできた」とは捉えていない。
「よく『どうやって人を巻き込むんですか、どうやって地域を動かしてきたんですか』って聞かれるんですけど、巻き込んでも、動かしてもいなくて。私の中にある火種が飛び散って、勝手に火がついて一緒にやっているという感じです」
島田さんが誰かに火を与えているわけではない。
「その火種も、みんなそれぞれに持っています」
もともと一人ひとりの中にある火種に、別の誰かの火が触れる。すると、その人自身の「やりたい」が動き始める。
「その火種は本気のものだから、水をかけられても砂をまかれても消えません」
そして、島田さんは自分自身についてこう話す。
「私は自分の火種が何かを知っています。だからそれが燃えているんです」
自分が大切だと思うことを表現する。その火に触れた人の中で、もともとあった火種に火がつき、その人が持つ魔法が動き始める。そしてまた別の人が加わっていく。
島田さんがウェルビーイングに関わる中で広がってきたのは、そんな「みんなで」の輪だった。
ただ、自分の火種を知っているからといって、いつも迷わず進めるわけではない。実際、「もう撤退しようかな」と考えるほど、折れた時もあったという。
そんな時には、一人で答えを出そうとはしない。悩むだけ悩み、落ち込んで、その中でも自分だけの視点で物事を見たり、決めつけないよう信頼している人たちに話し、別の視点をもらう。
「だからやっぱり助けてもらっています。折れないのではなく、折れる時もある。だけど、それで自分を疑うということはしていません」
島田さんにとって、強さとは、何が起きても折れずに立ち続けることではない。
「折れていいんですよ、人間なんで。ずっと真っ直ぐ立っていても、ものすごい強風が吹いたらボキッと折れちゃう。ある程度柔軟に、時には自分から曲がるってことも必要だと思うし。でも、根のところは自分は変わらないわけですよね」
折れる時には折れ、必要な時には人に助けてもらう。それでも、自分を疑わない。
一人で進むのではなく、それぞれ違う魔法を持った人たちと進んでいく。
第4章|「生まれて初めて、6月が楽しいと思えた」——自然の中で、人の感覚が動き出す
現在、力を入れている領域の一つが一次産業だ。もう一つの活動母体である一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会の代表理事として、和歌山県みなべ町をはじめ、各地で農業や林業、漁業の現場に入り、地域の人たちとともに活動している。
一次産業について話す時、島田さんが最初に口にしたのは、そこで働く人への感謝だった。
「農林漁業は一次産業って言われますけど、私たち人間が生きていくのに必須のものを生み出したり、とってきたり、作ったりしている方たちだから、本当に感謝に値するお仕事だと思っています」
農家さんや漁師さん、林業に携わる人たちは、人間の思い通りにはならない自然と毎日向き合っている。島田さんは、そうした人たちと同じ場所で時間を過ごす中で、持っている感覚や感性の違いを強く感じたという。
「コントロールできない自然と毎日向き合って、その中でお仕事している方たちだから、持っている感覚とか感性があまりに違う。本当に自然の一部である人間としての感覚を持っているなって感じるんです」
一緒にいるだけでも受け取るものがある。
「皆さんと一緒の時間を過ごすだけで、いただくものが本当に大きいんですよ。だから、気づきの宝庫なんですね」
島田さんは東京で生まれ育ち、長く企業の中で仕事をしてきた。そこで得た経験への感謝を持ちながら、地域へ入るようになったことで、出会う人も、過ごす時間も大きく変わった。
「今の生き方をして出会う人たちが全然変わったわけですよね。それによる気づきと学びは圧倒的に大きいなと思います」
その違いを、知識として伝えるだけでは足りないと感じている。
現地へ行って、身体を動かし、そこで暮らす人と一緒に時間を過ごす。その体験の中で初めて、自分自身で気づくことがある。
「本人が実際に体験して、体で触れて心で感じない限り、本当の気づきはない」
だからこそ、企業の人材育成でも一次産業の現場へ人を連れていく。そこで何を感じるかを、本人の身体に委ねることを大切にしている。
島田さん自身もまた、地域での暮らしを通じて、これまでとは違う豊かさを感じている。
「すっごく満たされてるし、本当に今の毎日でマジよかったなって思ってるし、ウェルビーイングはダダ上がってます。お金は激減したけど、でも『不安じゃないですか?』って聞かれても、本当に不安はないんです。ここだったら生きていけるって思えているから」
地域では、近所の人がイチジクやキュウリをたくさん持ってきてくれることがある。別の地域のお土産や他の方からいただいたものを、今度はこちらから誰かへ渡す。
地域では、金額に置き換えないやり取りも生まれている。
「この想いの交換。これがバーターだと思っています」
島田さんは、お金が価値を交換するための大切な手段であることも認めている。会社を経営すれば売上が必要になり、給与を支払う必要もある。
ただ、地域で暮らしていると、お金だけでは表せない交換が実際に起きる。そして、そうした人とのつながりが、冒頭の梅農家さんの言葉にもつながっている。
和歌山県みなべ町では、梅の収穫期に地域の外から人が集まり、農家さんと一緒に作業する「梅収穫ワーケーション」が続けられている。梅農家にとって、6月は一年の中でも特に忙しい時期だ。
ある農家さんは、60年間生きてきた中で、収穫のピークである6月をずっと大変な時期として過ごしてきた。ところが、2022年6月に地域外から人が訪れ、一緒に梅を収穫するようになった。
その農家さんから島田さんへ届いたのが、冒頭の言葉だった。
「60年生きてきて、生まれて初めて6月が楽しいと思えた」
島田さんは、その言葉を聞いた時を振り返る。
「そういう言葉を聞いた時は、生きてて良かったっていうか、『やってて良かったな』って思う」
地域と地域の間にもつながりが生まれている。みなべ町の梅農家さんたちと、三重県御浜町・紀宝町で展開しているみかん収穫ワーケーションの受入農家さんたちが知り合い、互いの地域を訪ねて収穫を手伝うようになった。
島田さんは、そんな光景について話しながら、
「こういうことが起きている時に、すっごい生きててよかったって思うんです」
自分一人がつくった結果として語ることはない。
「私はただただ、思いついたことを『やろう』と思ってやっていて。それは本当に一人じゃできないんです」
自然の中に入り、人と関わり、身体を使って体験する。
島田さんが一次産業の現場で見ているのは、人が本来持っている感覚に、自分自身で気づいていく姿でもある。
そしてこの「体験すること」の話は、これからAIがさらに進んでいく時代に、人間は何を深めていけばいいのかという話へつながっていった。

第5章|AIが進むほど、人間が体験することが大切——暗黙知と「人が内的なものから動く世界」
これからAIがさらに進化していけば、知識を得ることも、文章をつくることも、情報を整理することも、今までよりはるかに容易になっていく。
そこで島田さんが話したのが、「形式知」と「暗黙知」についてだった。
「自分がわかっている、とか覚えている、とか知っている、って思っているものは全部形式知。それは意識にあるもの、顕在意識にあるもの」
続けて、その関係を氷山に例えた。
「氷山の図を思い描いてくれたらイメージできると思います。つい海の上に出ている見える部分に目が行ってしまうけど、実は、海の下にものすごい大きな塊があるということを知っていて欲しい」
「氷山の下、ここにある知恵ですね。ここにある知識。これをざっくり言えば暗黙知です。暗黙知は、自分が見たもの、聞いたもの、感じたものすべてがそこに入っているから、記憶という氷山の上の部分にないように思えていても、実際には氷山の下の部分にはある。つまり体は知っているんですよね。身体知は暗黙知なんです」
そしてAIについて、島田さんはこう話す。
「AIは形式知の、とにかく素晴らしいスーパーパワーですよね。AIを使ったら、今まで何十時間ってかけてたものがパッとできる。だから、どんどん使った方がいい」
「じゃあ人間である我々は何をしたらいいのかって言ったら、暗黙知を増やすことにもっともっとフォーカスしたらいいわけですよね」
「暗黙知を増やすイコール、感性を磨くということ、体を使って体験して、身体知を得るということ」
そのために特別なことをする必要はないという。
自然の中へ行ってみる。普段とは違う場所へ行き、これまで会ったことのない人と会い、やったことのないことを経験する。
「いつもと違うことをするだけでいいんです。越境っていうやつです」
特に大切にしているのは、自分から遠い場所へ出ていくことだ。
「暗黙知を増やすために、体験し、いろんな人に会い、自分で感じることが、これからの時代に一番必要なことだと思います。特に、自分から遠いもの。やったことがないこと、行ったことがないところ、会ったことがない種類の人たち」
体験した後には、自分の中で振り返る。
何を感じたのか、何を考えたのかを言葉にする。そしてまた体験する。
島田さんは、人の言葉に重みが生まれることについても、そこに理由があると話す。
「言葉に重みがあるかどうかというのは、どれだけの体験をしていて、その体験から内省して、感じて考えてを繰り返しているかという力だと思います。体験したものを身体知として得て、内省して、言語化してみて、またそれを繰り返す。その結果だと思います」
AIを使いながら、人間はもっと人間にしかできない体験へ向かう。
その話の中で、島田さんは「呪い」という言葉も使った。
「みんなの中で呪いがかかってるんです。その呪いで何かがロックされちゃってる。それをアンロックするみたいな感じ」
島田さんが言う「呪い」には、自分自身でかけているものが実は多いそうだ。
「呪いはね、自分でかけちゃってるわけよ。自分で自分にね。」
一方で、島田さんはこうも話す。
「本来みんな、自分にいい魔法をかけるべきなんですよね」
さらに今回の対話の後、島田さんから届いた言葉の中には、これから創りたい社会についての表現があった。
「資本主義は『人が外的なもので動く世界』。私が居たい、そして創りたい世界は、『人が内的なものから動く世界』です」
島田さんは、お金の便利さも認め、会社も経営している。そのうえで、人を動かすものがお金や肩書き、周囲からの評価といった外側のものだけである必要はないと考えている。
自分の感覚を取り戻し、自分の中にある火種に気づく。 自分がやりたいと思うことを表現し、それぞれが持っている魔法を使いながら人とつながっていく。
そんな話を聞いた最後に、島田さんへIKIGAIを尋ねた。
「それって、自分を表現することだと思います」
さらに、島田さんはこう続けた。
「人がワクワクして、満たされていることをすることは、お金に変えられない」
IKIGAIについて話す中でも、再び「みんなで」という言葉が出てきた。
「やっぱりみんなで何かやってる感があるからでしょうね。一人でやってきたことなんか1個もないので。何か関わってやってることで、一緒にやってる人たちの目が変わるとか、前向きさが出てくるとか、良い変化が見えてくるとか。そういうものがあるから、『またやろう』『もっとやろう』って思って、『やってて良かった』って思えるんだと思います」
自分を表現し、それぞれが持つ魔法を使いながら、みんなで何かをつくる。その中で、一人ひとりが自分の内側にある火種から動いていく。
島田さんは自分自身の火種を燃やしながら、その火に触れた人たちとともに進んでいる。
そして、今日もその世界を表現し続けている。

あとがき
インタビュー中、私はどんどん島田さんの世界に引き込まれていった。
AIがこれからさらに進んでいく中で、人間は何を深めていけばいいのか。その話を聞きながら、自分がこれまで考えていた「AIと人間」という捉え方が、一気に広がっていく感覚があった。
そこで私は思わず、「まだまだ足らんな」と口にした。 すると島田さんは、すぐに言った。
「足りないってことはないんですよ。いつも足りてるんですよ」
さらに、こう続けた。
「いつも足りないと思い込んだら、一生足りないですよね。足りないんじゃなくて、『もっと広げたいと思った』っていう方がよくないですか?」
その時、何気なく口にした「足りない」という言葉が、自分自身に向けている言葉でもあったことに気づいた。
もっと知らないといけない。もっとできないといけない。まだまだ自分には足りない。
前に進もうとする時ほど、私はそんな言葉を自分に使ってきた。島田さんは、言葉についてこう話していた。
「言葉はやっぱり大事だから。言葉から。言葉を変えると人生変わるので」
インタビュー後、私は島田さんへ、「自分にかかっていた呪いに気づける時間だった」と伝えた。もう一つ、自分の中に深く残ったのが、「人が内的なものから動く世界」という言葉だった。
私はIKIGAI JAPANを通して、これまで多くの人の人生を聞いてきた。その中で、自分がこれからどんな人たちと生き、どんな人たちが増えていく社会をつくりたいのか。その輪郭が、今回の対話で以前より明確になった。
誰かが決めた成功だけではなく、自分が何を大切にしたいのかを知り、自分の中にある「これをやりたい」から動いている人。そんな人たちの言葉と生き方を残し、また次の誰かへつないでいきたい。
島田さんとの対話で、私は「足りない」という言葉を「もっと広げたい」に変えてもらった。たった一つの言葉でも、自分を見る景色は変わる。
足りないのではなく、もっと広げたい。
あなたの中に眠っている火種も、すでにそこにある。
IKIGAIコネクター
尾﨑弘師
WRITER PROFILE
尾﨑弘師 (おざき ひろし)
IKIGAIコネクター/IKIGAI JAPAN 主宰/株式会社ミトミト 代表取締役
これまで延べ1,500人以上に「生きがい(IKIGAI)」をヒアリングし、経営者を中心に100本以上の長編インタビュー記事を執筆。経営者インタビューメディア「IKIGAI JAPAN」を運営し、人生・価値観・哲学・仕事への想いを取材・言語化し、次世代へ残す活動を続けている。
掲げるのは、「その人の人生は、誰にもコピーできない。だからこそ、残すべき価値がある。」という考え方。AIによってコンテンツが大量生産できる時代だからこそ、その人にしかない経験や思想、技術、物語こそが差別化資産になると考えている。
さらに、発掘したIKIGAIをブランド・採用・集客・営業へつなげ、経済の力へ変える「IKIGAIマーケティング」を実践。インタビューによる価値の発掘・言語化を起点に、Webサイト・漫画LP・アニメーションなどのクリエイティブ制作から、広告運用・営業設計まで一気通貫で支援し、「その人だから選ばれる」マーケティングの仕組みを構築している。









